短い診察が当たり前?〜精神科クリニック診療の実際について〜


他のクリニックにかかった患者さんから、
「どこそこで◯分しか診察してもらえなかった」
「話をゆっくり聞いてもらえなかった」
といった声を聞くことがあります。
患者さんが多いから‥ということではあるかと思いますが、
精神科の小さなクリニックを運営している立場からすると、その医療機関には、経営的な事情があるのかもしれないと思います。
保険診療では「時間=報酬」ではない
美容医療などの自由診療とは違い、保険診療では診察の値段が一律に決まっています。
精神科の診療報酬では、時間をかけた診察であっても、報酬が大きく増えるわけではありません。(特に再診の場合)
そのため、時間をかけすぎると診察できる人数が減り、結果として収益は下がります。
スタッフの人件費やテナント賃料などがかかる場合、一人の診察時間を長くすると経営が成り立たなくなります。短時間しか診察時間を取れないクリニックには、そういう事情もあるのかもしれません。
当院では、初診は30分、再診は15分の診察時間を基本としています。再診の時間は多い方だと思います。
「それで(経営が)成り立つのですか?」と尋ねられたこともありますが、
実のところ、成り立っているのは、さまざまな経費面の工夫によってです。
たとえば固定費を下げるために、
最寄り駅から少し歩く立地で、2階の小さいテナントを借りており、 自動化を進めスタッフ人数を最小限にしています。
不便な点として、
エレベーターがない、検査ができる曜日が限られている、 事務スタッフが不在の時間帯には電話が留守電対応になっているなどもあり、
ご期待に添えることができていない部分もあるかと思います。
一方で、固定費が掛かっているため一人の診察時間を長く取ることが難しいクリニックは、
より通いやすい立地にあったり、 常駐の受付スタッフがいて問い合わせにすぐ応じられたりと、 別の形で利便性を高めているケースも考えられます。
ただし、診察時間を短く設定して予約をたくさんとっていても、実際にはその時間内に診察が終わらず、待ち時間が長くなってしまうなどの別の課題が生じている場合もあるかもしれません。
短時間の診察=不適切、とは限らない
「たった数分で、ちゃんと診られるの?」と感じる方も多いと思います。
しかし、精神科医療を長く続けていると、
疾患の経過や治療の方針について、限られた時間でも適切な判断ができる場合があります。
ただし、信頼関係を築くには診察時間をとることが必要な場合もあります。信頼関係があることは、治療をより有効にします。
また、急かされない雰囲気の中でしか話しにくい事柄もあるでしょう。
最後に
精神科診療には画一的な正解はなく、それぞれのクリニックが、制度の中で何を大切にするか、どこに力をかけるかを選択しながら、成り立っています。
公的な医療機関であれば、採算を度外視した運営であっても、ライフラインとしての役割を果たすために公的予算が組まれることもあるかもしれませんが、個人のクリニックでは、持続可能な形で自ら運営を成り立たせていく必要があります。
当院もできる範囲の中で工夫しながら、できるだけ良い診療の形を探していきたいと思っています。
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