漢方について雑感 −加味帰脾湯を引き合いに−

加味帰脾湯という漢方は、とてもよく処方している漢方薬の一つです。

加味帰脾湯には「脾」という字が入っています。

漢方には「脾」という概念があります。

これは、現代医学の脾臓のことではなくて、今で言うと消化器系のことを指します。

漢方の世界の言葉は、今の医学の使われ方と少しずれていることがあります。これは、昔は解剖が禁じられていたため、機能や構造を想像して捉えていたからとも考えられています。

「そうすると漢方の世界というのは、昔の、まだまだ不正確な時代の医療・治療なんじゃないの?今更、なんでそんなもの使うの?」

という気持ちになるかもしれませんが、長い歴史の中で効果があるという処方が引き継がれてきています。

昔は今のように臓器の詳細や、ホルモンの働きなどが明らかになっておらず、いくつかの働きをまとめて名前をつけて理論を作っていったのではないかと思います。

現代の科学は詳細に分割して解明していってピンポイントで考えていきますが、

漢方は体質や生活習慣なども包括した捉え方も含んでいるので、個々人の健康維持にとっては、むしろ現代の薬よりも適していることもあります。

そのため、現代の日本でも健康保険で漢方薬の処方が認められています。

また、漢方の作用を現代の理論で説明していこうという研究もあり、

加味帰脾湯を投与したラットにストレスを与えるとオキシトシン(抗ストレス作用のあるホルモン)の分泌が高まって、ストレスからの回復が早かったという実験結果もあります。

今後、「漢方の〇〇という概念は、このホルモンのこういう作用が〜」というような、現代に沿った解説が進むと、より漢方薬の作用が理解しやすくなるのではないかなと思います。

ちなみに、この「脾」とは、食べ物を消化して栄養を全身に送り届ける機能があると考えられています。

また、「心」という概念は、血液の循環や意識・思考を司る機能とされています。

「脾」が弱ると「心」へのエネルギー供給が滞って、「心」も弱ってしまい、疲れが取れなくなって気力が出なくなったり、倦怠感が出たり動悸がしたりすると考えられています。

帰脾湯という処方がありますが、脾を高めて心も回復する処方なので帰脾湯といいます。

加味帰脾湯は帰脾湯に、柴胡と山梔子を加えた処方です。

参考 健康保険が使える漢方薬の事典、医師・薬剤師のための漢方のエッセンス